「元AV女優」という経歴もあって私が最優先にしていた態度とは? 記憶のなかの「取捨と選択」【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第42回
【忘れかけていた「私自身」との邂逅】
いつの間にか手放してしまった本や聴かなくなってしまった音楽。記憶の片隅にかすかに残っている焼き菓子の匂いで満たされたキッチン、飼っていた犬と駆け回った野山、季節ごとに色づく草木。この何年かで完全に私の中から手放してしまったと信じ込んでいたものたち。
数ヶ月前から私の心の中に残る欠片を拾い集めて、一つ一つの存在を見つめ直している。これまででは考えられないほど静かで穏やかな時間だ。そんなことをしていると、今まで忘れていた私というものに偶然再会することができて、どこか味方が増えたような心強い気持ちに満たされる。
私の真ん中にある柔らかな光のような記憶たち、そして今の私が新しく重ねていくきらきらと光る記憶が綯交ざる。これまで重ねてきた時間を辿る旅は始まったばかりだというのに、私という存在が緩やかに変化しつつある。こういった転換点みたいなのはこれまでもあったが、どちらかというと濁流に流されているような感覚で、良くも悪くも全てを変えてくれた。一方、今回はもっと穏やかで静かな流れに身を任している感覚だ。私が抱えすぎたものを取捨選択しつつ、忘れかけている何かを拾い集めている。その中で、一つ大きな選択をした。選択をするというよりも、〈不思議とそうさせられた〉の方が正しいのかもしれない。
そのことについては、また次回に綴っていこうと思う。
(第43回へつづく)
文:神野藍
※毎週金曜日、午前8時に配信予定
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